文学ファイター

この世界の片隅で。

新しいクツと世界の終わり

新しいクツを買った。新しいクツで初めて出かける時は、いつも世界の終わりに思いを馳せる。

街を歩いていると、突如けたたましくサイレンの音が鳴るのだ。現れる怪獣!揺れる大地!降り注ぐ彗星!来襲する宇宙人!逃げ惑う人々!――今日、世界は終わるのだ。

しかし私は走らない。闇雲に逃げない。それは、私が冷静で知的な人間だからではない。クツズレを起こしているからだ。

「足痛い……」と思いながら、皆が逃げた後を、一人とぼとぼと逃げるのだ。ちくしょう。いいなー。みんな一緒に盛り上がれて。世界の終わりすら、一人孤独に迎えるのかよ……。

世界の終わりくらい自宅で迎えたい。なぜなら私はインドア派だから!そう思い、家に帰るために駅に向かうのだ。しかし、駅に着くと人々はもはやおらず、電車も止まっているのだ。そうだよね。怪獣現れてるもんね。

仕方なく、人生で二度しかひとりでタクシーに乗ったことがない私がタクシーをつかまえようと道を見渡すが、すでに車は見当たらないのだ。そうだよね。宇宙人来襲してるもんね。

仕方なく、グーグルマップでここから家まで徒歩で帰れるか否かを確認し「よし!無理!」と絶望するのだ。

そして、やはり世界の終わりといえば最後の晩餐なのではと思い、コンビニへ向かうのだ。そしてタラコのおにぎりと、すじこのおにぎりと、タマゴサンドと、午後の紅茶ストレートを買うのだ。

しかし、レジには既に人はいないのだ。私はお釣りが欲しい。それともあれか?これはお金を払わなくても良いパターンか?でも、どうせ死ぬなら人生の最後に犯罪を犯すのは嫌だな。でも、もしかして生き延びれるならお釣りが欲しい。とか思っていると、突然爆音と怪獣の咆哮が聞こえるのだ。で私は「あ、これ私今日死ぬパターンです」と素直に諦めて、お金を払って――なんなら一万くらい払って店を出るのだ。

どうせなら座って食べたいな、と思ってマクドナルドへ向かうのだ。もちろん人はいないから、私は四人席に腰掛けて、もそもそとおにぎりとサンドイッチを食べだすのだ。

すると突然宇宙人が一人、店内に入ってくるのだ。そして私と彼は、最近の宇宙と地球に関して雑談するのだ。へー、地球も大変だね。へー、宇宙も大変だね。

なんかこのまま見逃してくれるのかなーとか思ってると、宇宙人が去り際に「じゃ、そういうことで」と言って、私をレーザー銃で撃って殺すのだ。じゃ、そういうことでって……。人生で最後に聞いた言葉がじゃ、そういうことでって……。なんかもっと凄い言葉を聞いて死にたかった。「私はお前の父だ!」とか。とか思いながら、マクドナルドの片隅で孤独に死ぬのだ。そんなの嫌だ。

世界の終わりの日くらいは、みんなと一緒に盛り上がって死にたい。みんなと一緒にパニックになり、みんなと一緒に走り回り、みんなと一緒に宇宙人のレーザー銃で一掃、もしくは怪獣の吐き出す炎で死にたい。マクドナルドの片隅で誰にも知られずに死ぬのは嫌だ。

だから、新しいクツで出かけるときは、今日が世界の終わりではありませんように、と願ってる。

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