小説シンガー

ここ数年、怒られた記憶が無い。

怒られる。

学校の窓ガラスを割ってしまった。そもそも教室の中で田中がキャッチボールをしよう、と俺を誘ったのがいけないのだ。その誘いに乗った俺も悪いっちゃ悪いけど、田中の方が俺の2.5倍くらい悪いはずだ。全ては田中のせいだ。

というわけで、俺と田中は安藤に怒鳴られながら、職員室へつれていかれた。安藤といえば、この学校で一番恐ろしいと言われている体育教師だ。生徒と一緒に街を歩いているだけで、警察に「学生が街でからまれているという通報があったんですが」と呼び止められるほどのオーラを持つ男だ。あぁ。殺される。死ぬ。うげー。ふぎゃー。

とか思っていると、なぜか、安藤は俺たちを鈴木先生の前につれていった。
「いいか、おまえら。今日は、俺よりも更に恐ろしいことで有名な鈴木先生に叱ってもらうからな!いいな!!」

いやっほぉーい!!と正直思った。小躍りしたい程だった。鈴木先生といえば、この学校で一番ネクラな陰湿先生。きっと俺たちをじめじめねちねちと叱りつづけるのだろう。だが、オーラだけで人を殺せる安藤よりは一千倍マシだった。

鈴木は、俺と田中の目をじっと見ると、こう言った。

「ねちねち」

思わず、「は?」と言い返しそうになった。だが、鈴木は何事もないように続けた。

「ねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねちねち」

俺と田中は、ねちねち言いつづけられた。何かは分からないが、その異常な光景に、田中は冷汗をたらし顔を真っ青にさせ、俺は体が小刻みに震え出した。鈴木は、「ねちねち」以外に何も言わない。声のトーンは変わらない。いつ息を吸っているのか分からない。鈴木は顔色一つ変えずに、感情の無い、死んだような目で「ねちねち」と言いつづけた。一時間後、やっと俺と田中は解放された。俺は全身に汗をびっしょりとかいていた。田中はその後保健室へ運ばれていった。まさか、あんなにねちねち怒られるとは思ってもいなかった。

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