小説シンガー

動物虐待には反対です。

死体

今日、冷蔵庫を開けたらネコの死体が入っていた。思わず「警察を呼んでくれ!」と叫んだ。ちょっとちびった。

俺の叫び声に応えてくれる人間は誰もいない。なぜなら、俺は一人暮しだからだ。幸か不幸か過去にこの家に入った人間は誰もいない──ということはだ。ネコ殺しの犯人は、俺がいない間に俺の部屋へ侵入して、冷蔵庫を開け、ネコを中にいれたということだ。はっはっは……。ちょっと泣いた。

あんな愛くるしい動物を殺せる人間がこの世にいるのか……。うーむ、俺と同じ人間とは思えない。これは警察に届けるべきだ。

いや、待て、落ち着け。落ち着こう。仮に警察に電話したとして、最初に疑われる人間は誰か。俺だ。だって、この部屋の鍵は俺しか持っていない。この家には、俺以外入ったことはない。うむ。誰がどう考えても犯人は俺だ。俺か!いや、俺じゃないよ。

犯人はまさか、俺に恨みがあって……?どんな恨みが?六年前に俺を裏切った親友か?五年前に離婚した妻か?その妻との間にできた娘のユリか?その妻と娘を俺から奪った同僚か?俺をクビにした上司か?いやいや、やつらが俺を裏切ったんであって、むしろ俺の方があいつらを恨んでいる。あぁー、思い返せば、俺の人生は不幸だなー。そんな俺へのとどめの一撃がネコの死体というわけだ。

そもそも、俺は品行方正な一般人だ。恨む権利は会っても、恨まれる覚えはない。つまりだ。これは悪質ないやがらせだ。俺が恐がる姿を想像して楽しんでいやがるんだ。ちっくしょー。

突然、パトカーのサイレンの音が鳴り響き、玄関のチャイムが鳴らされた。

おっと、どうやら、俺のさっきの叫び声が、外を通る誰かの耳に入ったらしい。こいつは困った。状況証拠から犯人は俺ということになってしまう。なんとか逃げおおさなければ。

扉をあけると、警察官は開口一番こういった。
「冷蔵庫の中を見せてもらえますか?」

「えっ!?なんで冷蔵庫の事を知っているんですか?」
「いや。交番に通報がありましてね。冷蔵庫の中に恐ろしいものが入っている、って泣きながら言うんですよ」

そのとき、俺は閃いた。そいつが犯人だ!俺をはめようとしてやがる!!

「お巡りさん、犯人はそいつですよ!!」
「えぇっと、とりあえず、冷蔵庫の中を見せてもらえますか?」

俺は、警察官を冷蔵庫の前につれていく。義憤で腕が震える。
「開けていいですか?」
「もちろんです。見てください。犯人がやった悪魔のような所業を!!」

警察官は、冷蔵庫を開け中をのぞきこむと、「うっ!!」と呻いた。さすがの警察官もこのような悲惨な事件は初めてだったのだろう。

──次のニュースです。今日、山中市の多田真澄さん方の冷蔵庫から、複数の遺体が発見されました。警察によりますと、多田さんは「それは、私の親友と元妻と、娘と同僚と上司の死体だが、ネコの死体は絶対に俺じゃない」など、意味不明な事を喋っており、警察では慎重に……

このエントリーをはてなブックマークに追加