玄関のチャイムが鳴ったので扉を開けると、美少女が立っていた。
あぁ、一人暮らしの大学生の所に美少女が来て、なんやかんやで一緒に暮らすことになり、最終的に恋に落ちて、そして二人は──みたいなことが遂に俺にも起こるのか、とワクワクしたら、彼女は静かにこう言った。
「あなたは神を信じますか?」
宗教かー!!宗教の勧誘なのかー!!そうだよねー!!俺みたいなブス人間の所に裏の無い美少女なんか来ないよなー!とか思ったら、彼女は次にこう言った。
「私は天使です。今、地球に危機が迫っています」
終末思想かー!!世界の終わりを予言して危機感を煽り、信者を増やそうという魂胆かー!!って思ったら、さらに彼女はこう言った。
「あなたは選ばれた戦士なのです」
ぬおー!!選民思想かー!!「自分は選ばれし者」と思わせて信者間の結束力を強めるつもりかー!!
「お願いです。あなたの力が必要なのです!」
俺は五秒だけ考えた──うん、無理!五秒考えるまでもなかった!
「……すいません。僕は無宗教ですので、宗教はちょっと──」
というと、彼女は悲しそうな顔になって言った。
「あなたは唯一選ばれた戦士なんです。あなたがいなければ、地球は滅んでしまう……」
俺はなんだか可哀想になって、罠と知りながら一応聞いてみる。
「……地球の危機ってどんな危機なんですか?」
「魔王サタンが数百年ぶりに地獄より舞い戻り──」
しょぼっ!!ここまでは良かったのに設定がしょぼい!!思わず吹き出すと、彼女はちょっと怒り顔になった。
「あなた達普通の人間は、既に魔王が作った悪の宗教の手の中に落ちてしまっているのです!!だから私の言うことが理解できないのです!!」
うんうん、そうだよねーって軽く合わせたりしてみた。
「一体、どうすれば信じていただけるのですか!?」
「うーん……。じゃぁ、神様見せてよ」
と言ってみた。困るかと思ったら「そんなことでいいんですか?」って言って、「神様ー、呼んでますよー」とか言いやがった。ダメだ、こいつ。宗教系じゃなくてキチガイ系かもしれない。
「呼んだか?」
突然背後から声がしたので驚いて振り返ったら、俺の玄関に置いてあるハニワの置物が喋り出した。
「私が神だ」
こ、こいつら……事前に俺の家に侵入してハニワに小型マイク仕込みやがった──!!そもそもこのハニワは先祖代々伝わるハニワとかじゃなくて、三ヶ月前くらいに500円くらいで買ったパチモンのハニワだ。神なわけが無い!!
俺はハニワをつかんで、ひっくり返した。「あ〜れ〜!」とかハニワが喋るが無視だ。小型マイクはどこだ。
「……小型マイクなんてついていませんよ?」と彼女が不安そうな顔で言う。確かに一見小型マイクはついていない。はっはーん。さては、このハニワの置物作成時に内部に小型マイクと発信器を埋め込んでおき、誰かに売れたら、発信器を頼りにその家へ行き、新興宗教に勧誘しようという魂胆か!なんという外道!死ね!
「……まだ信じてもらえませんか?」
「信じられるかっ!!」
じゃぁ、どうやったら信じてもらえますか?って女がまた言いやがる。
「えっと、お前、確か、天使だったな。飛んでみろ!」
って言ってみた。困るかと思ったら「そんなことでいいんですか?」って言って、「うりゃー」とか言って背中から羽を生やして飛びやがった。信じられねぇ。この宗教、すでに反重力技術を発明していたとは……!!宗教の勧誘じゃなくてノーベル賞でも取っとけ!
「あの──。まだ信じてもらえませんか?」
「当たり前だ!お前、確か女だったな!?おっぱいを見せてみろ!!」
って言ってみた。困るかと思ったら「そんなことでいいんですか?」って言って、おっぱいを見せてくれたから信じることにした。
「信じていただけて大変嬉しいです。ね?神様」
と彼女が言い、
「うむ、全くじゃ」
とハニワ──もとい、神様がおっしゃる。
「では早速まずは渋谷へと参りましょう」
そう言って、彼女が小さく呪文を唱えると、俺の体と彼女の体とハニワ様の体がぶわっと空を飛んだ。
信じたくはないが、ここまでくれば信じるしかない。呪文で空を飛ぶなんてどんなファンタジー小説だよ。
「でも、なんで俺が選ばれた戦士なんだ?」
そう言うと、彼女はにっこり笑った。
「純真な人間の中で、あなたがもっとも力を持っていたから。子供たちは皆、神の力を信じてくれているけれど、大人になるにつれて悪の宗教に落ちてしまうから」
「へー?宗教?っていうか、今、渋谷に向かってるんだっけ?渋谷に向かって何をするの?」
「これを──」
そう言って彼女は俺に武器をくれた。
「これは──」
「はい。ハンディマイクです」
「は?マイクを使って何をするの?」
「もちろん、駅前で道行く人々に訴えるのです。『あなた達は、科学という名の悪の宗教に騙されている!』と!!」
なんだろう。俺はこれから先の戦いが予想とは全く別のものであったにも関わらず、辛く、厳しいものになることを確信し、なぜか心の中で「ごめんね、母ちゃん」とかつぶやいたりしていたのだった。