小説シンガー

魔王がピンチです。

魔王

「遂に魔王を追い詰めた」と友達から携帯に電話が来た。

「おー。良かったじゃん。さっさとぶっ殺せば?」って言ったら、「いやー。それが、魔王にダメージを与えられないんだ、俺じゃ」ときた。

「なんでよ?」
「魔王によると、『ふっはっはっはっは!ワシにダメージを与えることが出来るのは、インド人か、パスタの王様のみじゃ!!』だってさ。俺、インド人の友達とかいないもん。お前ってさ、確かパスタの王様だったよな?」

「いや、まぁ、そうだけど。俺今、受験生だぜ?もうすぐセンター試験なんだ」
「お前さぁ、お前の人生と世界の平和、どっちが大事なの?」
「俺の人生に決まってるだろ」
「おっまえさー……。もういいわ!分かった!今から魔王連れてお前ん家行くから!じゃ!」
「え?俺今──」
勉強中なんですけどね。切れましたね。

十分後、家のチャイムが鳴った。
「ゆうきー。お友達が来たわよー」
いやさ、お母様。俺、今受験生じゃん?お友達を断るとかしないわけ?しないわけね。

「おっすー!!ゆうきー。なんだかんだ久しぶりー」
と、全く空気を読む気の無い友達、ケンイチが魔王を肩に担いでやってきた。魔王はガムテープでグルグル巻きにされている。
「はいはい。俺今勉強中だから、さっさとやって、ちゃっちゃと終わらせようね」
「いやいやまぁまぁとりあえず見てくれよ!俺が捕まえた魔王!」
そう言って、ケンイチはガムテープグルグル巻きのままドンと俺の前に魔王を置いた。

「……見えない」
「え?マジで?お前、視力悪かったっけ?」
「いや、そうじゃなくて、ガムテープで見えない」
「あー。でも、ガムテープ剥すと逃げるし。まぁ、なんか凄そう、って思ってくれればそれでいいよ」

「ほふへーほ!!」と魔王が叫んだ。
「なんか言ってるよ?魔王」
「あー、まぁ、口のテープくらいは剥してもいいかな」
そう言って、ケンイチは魔王の口のガムテープを一気に剥した。「ふごあっ!!」と魔王が叫ぶ

「くっ……。ふっははははははは!愚かな人間どもめが!!私をここまでコケにしたのは貴様が初めてだ!!死んであの世で後悔するがいい!!」

おー、魔王だ。と俺が感心して言うと、な?魔王だろ?とケンイチが自慢気に言った。

「じゃあ、早速ぷちっと殺してくれ」
そう言ってケンイチが銃をくれる。
「すげー。銃なんて初めて見たわ」
と俺が感心して言うと、
「すげーだろ。口外するなよ?俺が逮捕されるから」
とケンイチがこれまた自慢気に言った。

俺が魔王に銃を向けると、魔王が、ちょ、ちょっとタンマと言った。

「いやいやいや、待った待った。待ちたまえ!!人間ども!!私は言ったはずだぞ!!インド人かパスタの王様でないと私にダメージは与えられないと!!」

「いや、うん。だから俺、パスタの王様」って言うと、「いやいやいやいや、信じられない信じられない」と魔王がすごい勢いでキョどる。

「いや、ちょっと待て。確かに!確かに私の弱点はインド人とパスタの王様だ。だから私も、インド人には細心の注意を払って生きてきた。恐らく、私の息の根を止めるのはインド人であろうと!そう覚悟しながら生きてきた。しかし!パスタの王様とは!パスタの王様とは!!くっはっはっはっは!!片腹痛し!!」
はい、じゃあ撃ちまーす。と俺が言うと、
「だからちょっと待て!」
と魔王が一喝した。

「そもそもだ!!そもそも!!パスタの王様ってなんだ!?」
いや、なんだと言われても──
「だから、王様なんだろ?パスタの」
とケンイチが言い、
「そうです。パスタの王様です」
と俺が応える。

「いや!!私は信じんぞ!!パスタの王様など!!定義を教えろ!!定義を!!おヌシは一体どこで『パスタの王様』などという称号を得たのだ!?」
どこでと言われても──
「だから、生まれた時からだろ?」
とケンイチが言い、
「そうです。生まれた時からです」
と俺が応える。

「くっははははははは!!生まれた時からとは!!片腹痛し!!ならばおヌシの一族はパスタの王族ということか?くっはっはっはっは!!」
はい、じゃあ撃ちまーす。と俺が言うと、
「だから聞いてるだろ!?応えろよ!!」
と魔王が一喝した。

「うん。俺の家は代々パスタの王家だけど?」と俺が言うと、「そんなもの、現実感がないわっ!!」と魔王がわめく。
「では、どこだ!?パスタの国は!?パスタ国民は!?」
「そんなものねーよ。なに現実感の無いこと言ってんだよ」
とケンイチが言う。

「では、なぜ、おヌシはパスタ王家の地位を受け継いでいるのか!?まさか、パスタの知識が豊富とかいうつまらない理由によるものではなかろうな!?」

突然ドアが開き、母さんがお盆にジュースを三つと和菓子を載せてきた。
「はいはい。なんだかさっきから盛りあがってますねー」
「母さん、ジュースは2つでいいのに」
「なんでよ?そのガムテープの子はいじめられっ子?オヤジ狩りの被害者?」

「おい女ぁー!!」
魔王が大声をあげる。
「貴様は本当にパスタ王家の血筋を持つのか!?」
「えぇ。持ってますけど?」
「い、一体パスタ王家とはなんだ!?パスタの知識に詳しいのか!?」
「さぁ……。特にパスタに詳しいわけでもありませんけど……」
「ならば、パスタの王家などと認めぬ!!称号を放棄しろ!!」

「むちゃくちゃ言うなぁ……」と俺が呟くと、「おヌシの方がむちゃくちゃだ!!」と魔王が吼える

「じゃあさぁ。俺は『パスタの王様』だけど、逆にお前はなんで『魔王』なんだ?」
「くっはっはっはっは!!我は生まれながらに魔王!!純粋な悪!!」
「おー、俺と一緒じゃん」

「い、いや。だが、私には世界を征服するという明確な目的が存在する!!パスタの王様の目的はなんだ!?」
えーっと
「なんか、たまーに、パスタの大会とかに呼ばれて、スピーチとかするけど」
「くっはっはっはっは!!なんと小さき王族よ!!」
失礼な奴だな。

「じゃあさ。魔王の国と魔王の民はどこにいるんだよ?」
と俺が聞く。
「それはまだ存在しない──が、悪しき心を持つものを配下にし、ゆくゆくは我がための王国を築くのだ!!くっはっはっはっは!!」

悪しき心を持つものを配下にしてたの?とケンイチに聞くと、「あぁ、まぁ、そう聞くと凄そうだけど、ただのヤンキーだった。銃で即殺。楽勝」と、ケンイチがこれまた自慢気に言った。

「結局さ。俺は意味もなくパスタの王様で。お前は意味もなく魔王なんだよ」
俺がそう言うと、意味はあるわっ!!と魔王が怒る。
「じゃあさ。お前、もし仮に生まれたとき『魔王』という称号が無かったら、本当に世界征服とか考えた?多分、普通の人生を送って普通に死んでると思うよ」

俺がそう言うと、魔王が「ぐっ……」と黙る。

「俺も特にパスタの知識とか無いけどさ。お前も特に、魔王として世界征服の知識が無いじゃん。悪者を部下にって。それさ、マンガ読んだりテレビゲームしてたりしたら誰でも思い付く方法じゃん。ガキでも思い付く。お前の魔王としての特別な世界征服方法とか無いじゃん。むしろ、俺らはパスタの王様だけどそれに縛られず自由に生きてるのに、お前は称号に縛られて、その生き方しか出来てないんだよな。お前、格下なんだよ。俺らパスタの王家よりも」

「……わ、私は。違う!私は愚かなお前たちとは違う!!」
「そうだな。お前は俺らよりバカだ」

はい。魔王、完全に沈黙──。

その後、魔王が可哀想になったので逃がしてあげました。魔王は「称号を捨てて、一から出直します」と言って、頭を丸坊主にして旅に出ていきました。彼らしい新しい生き方を見つけてくれればと思います。魔王の称号は「もったいねーじゃん!!」とケンイチが引き継ぎました。「俺はもっと賢く世界征服して見せるぜ!!」と張り切っています。

6年後、俺とケンイチは命を賭けて戦うことになるのですが、それはまた別のお話──。

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