小説シンガー

拾ったものを警察に届けたことが無い。

拾得物

「でもね、めんどくさいじゃん」
と彼女は言いました。

私は仕方なく犬語で話しました。
「わんわんわんわんわわんわん!!」

私がそう言うと、彼女はため息をつきながら言いました。
「あのさぁ。めんどくさくなると犬語を話すの、やめない?」

私は仕方なく日本語で説得します。
「いやー。綾さん。めんどうくさい、めんどうくさいとは言いますが、拾ったものは警察に届けないといけないんですよ?そりゃーね?これは、綾さんが前から欲しい、欲しいと言っていたベリー人形。その麗しき青い瞳。その抜群のスタイル。その赤い唇。イエース!綾さんの憧れの存在、ベリーちゃん。しかし!綾さんがこれを拾ったまま自分の物にすると、これの元々の持ち主である誰かさんが悲しみます。誰かさんはきっと泣きながら、『ちくしょう!誰だ、私の人形を盗んだ野郎は!!この呪いのワラ人形で、その人間をわんわんわん!!!』」

「……あのね?喋るのが面倒くさくなると犬語を喋るのなんて、お父さんくらいだよ。なんだよ。ワラ人形でわんわんわん、って」

「でもね、綾さん。つまるところ、わんわんだから。でね、わんわんだけど、わんわんだから。だから、警察に届けよう。ね?」

「んもーぅ……。しょうがないなー」

娘の説得になんとか成功した私は、娘を連れて、ベリー人形を警察に届けに行った。すまない、娘よ。しかし、これも良い社会勉強になるんだ。拾った者は警察に届ける!こういう、小さいことの積み重ねで、君が大人になる頃には、きっといいお嬢さんになるのだわん。

警察署にいくと、ちょうど娘と同じくらいのお嬢さんが泣いているのを見つけた。

「うぇーん……わだじの……べりーぢゃーん!!うぐふぇー……」

娘は、それに気づいて、その子の肩を、とんとん、と叩いた。

「ねぇ。もしかしてあなた、この人形を落とした?」

少女は、娘が持ってきたベリー人形を見ると、顔が見る間に笑顔になった。
「ふぎゃー!!私のベリーちゃん!!」

警察官のおじさんがその様子を見て、「よかったねー。見つかって」と声をかけている。

あぁ。なんと素晴らしいことか。娘は、その少女がお礼を言うのを、耳を真っ赤にしながら聞いている。なんてグッドな経験なんだ。娘も、これで『お礼を言われることの嬉しさ』を学ぶことができた。

私はその後、上気分で娘をおもちゃ屋さんへ連れて行った。もちろん、買うのはベリーちゃん。娘も、嬉しそうに目を細めた。

数日後、娘がまた何かを拾ってきた。
「これは私のモノー!!」と駄々をこねている。

見ると、娘が拾ってきた物はどうやら浮浪者らしい──って、それは普通拾うものじゃないだろ!!私は思わず叫んだ。

「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわん!!」

私が興奮して犬語を喋るのを聞いて、浮浪者は言った。
「なに、こいつ。バカなの?」

私は、その声を聞いて、再度ビックリした。こいつ、女じゃねーか!!

「わおーん!!」

娘が説明する。
「あのね。うちのパパは、喋るのが面倒くさくなったり、興奮すると、犬語を喋るの」

なるほどー。変態かー。あはは。と言われたので、うるせー、黙れ!!と一喝した。

「あのね、綾さん。それ、人間だから。拾うものじゃないから。ほら、あの、犬にも、家にすんでる飼い犬と、家のない野良犬、ってあるでしょ?それ、野良人間だから。むしろ、家で飼うと嫌がる種類だから」

いやー。私は家、全然大丈夫っすよ。ははは。と浮浪者が笑い、だよねー、と娘も笑ったので、とりあえず、浮浪者に『おまえ、空気読めー!!』光線をおくるが、ガン無視された。

「いや、あのね。その、君なに?家出少女?」

ぴんぽーん!と浮浪者が言ったので、思わず飲んでたコーヒーを吹いた。おまえ、身なり汚すぎて、四十代にしか見えねぇよ!!

「なにを拾われてるんだ、何を!!野生にもどれ!!たくましく生きろ!!」

「いやー。なんつーか、久しぶりにお風呂に入りたいなーと思って」

私は思わずワオーンと遠吠えをした。

あはは。お父さん、やっぱり変態だね、と浮浪者が笑う。

「てんめぇ!!フケだらけじゃねぇか!!風呂が真っ黒になる!!」

「いいじゃん、そのくらい」と娘が言うので、渋々風呂を沸かし、浮浪者を突っ込む。

浮浪者が風呂に入っている間、娘を問いただす。
「どこで拾ったんだ!?あの野良人間!!」
「えー。公園だよー」
「警察に届けるわん!!」
「えー。警察所まで行くの面倒くさいよー」
「いやー。綾さん。めんどうくさい、めんどうくさいとは言いますが、拾ったものは警察に届けないといけないんですよ?そりゃーね?これは、父さんが前から欲しい、欲しいと言っていた若い娘。できれば美人がよかった!できれば美人がよかった!!美人であれば言うことなかった!!しかし!これを預かったまま父さんが自分の物にすると、これの元々の持ち主である誰かさんが悲しみます。誰かさんはきっと泣きながら、『ちくしょう!誰だ、私の娘を盗んだ野郎は!!この呪いのワラ人形で、その人間をわんわんわん!!!』」

「お父さん……欲しいの?」

「できれば美人がよかったわん……」

と言っていると、「あー、さっぱりした」と言いながら浮浪者が出てきた。フケが綺麗に洗われ、髪もモジャモジャで臭っていたのがマシになった。俺は、その顔を見て驚いた。妥当!明らかに、汚いのをちょっと綺麗にしましたよー、くらいにしか変化がない!いや、普通、こういうときは「実はお風呂に入ると美女に大ヘンシーン」とかあるだろ!ないか!ないな!

「さて、野良人間よ」
「はい、なんでしょう」
「娘と、交渉に交渉を重ねた結果、拾った物は警察に届けることになった」
「あ、ありがとうございます」

「え?いいの?わんわん?家出少女でしょ?普通、『警察には突き出すな!』とか言って、激しく抵抗するのを、俺が勇ましく諫めて、『おとなしくお縄をちょうだいしろー!』みたいな?」
「いやー。野良生活もそろそろ限界なので、一旦、家帰りますわ」
「そ、そうか。……根性ないな」

というわけで、娘とともに野良人間を警察署に届け、娘を一旦家に返した後、一人で上気分で風俗店行った。もちろん、会うのは若い女の子。私は嬉しさのあまりワンワン鳴いた。

数日後、娘がまた何かを拾ってきた。
「これは私のモノー!!」と駄々をこねている。

見ると、娘が拾ってきた物はどうやら離婚調停中の私の妻らしい──って、それは普通拾うものじゃないだろ!!私は思わず叫んだ。
「わぉーんわんわんわんわんわんわんわんわんわん!!」

「……あなた、これは一体どういうことかしら?」

「あのねー、これねー、ベリー人形!!パパが買ってくれたの!!」
そう。あの日は勢い余って等身大ベリーちゃんを買ってきてしまった。

「あとねー、これねー、飼い人間!!パパが買ってくれたの!!野良人間じゃないから、家の中も平気だよ!?」
そう。あの日は勢い余って可愛い子をそのまま連れて帰ってしまい、それ以来一緒に住んでいる。ついでにいえば、「あ……、奥さんいたんですか……」みたいなことを言ってる。

「わんわんわんわんわん!!あ、綾さん?拾った物は警察に届けないと……ねぇ?」

「だって、これ、もともとパパの物じゃん!!」

そうだよね、そうだよね。

その後、なんか離婚が成立して、ベリー人形と飼い人間と、ついでに娘も失いました。

通学路の帰り道で待ち伏せして、娘が拾ってくれないかなー、とか思ったら、「野良人間は家がきらいだもんねー」とか言ってとりあってくれません。助けてください!!

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