小説シンガー

私はいい人です。

天邪鬼

天邪鬼(あまのじゃく)という妖怪をご存知でしょうか?常に嘘をついて人々を困らせる。そんな妖怪です。何を隠そう、私がその天邪鬼です。いつも、思っていることとは正反対のことを言ったりやったりして、人々を困らせています。

私は、日頃は人間の姿で自殺名所である断崖絶壁の崖の上で監視員をしています。人の生き死にを間近で感じられる仕事。妖怪の私にぴったりです。

おっと。今日もまた、自殺を試みようとやってきた人間がいます。さっそく、その人間をからかってやりましょう。

「こら、そこの人!何をしているんだ」

そう言いながら、私はその人間を観察します。目が血走っています。手荷物は持っていません。唇が震えています。経験上、自殺志願者であることに間違いはありません。私は心の中でほくそ笑みます。どうやってこの人間を自殺まで追い込もうか。

「来るな!」

そう言って、人間は崖の方へ一歩後ずさりをします。

来るなといわれたら、私はどんどん近づきます。だって、天邪鬼だもの。

「それ以上近づくと飛び込むぞ!」

私は、ぜひとも飛び込んでほしかったので、「飛び込むな!やめろ!」と叫びました。

「ほっといてくれ!!誰も私に生きてほしくなんかないんだ!」

きっと、その通りでしょう。なので、私は叫びました。「そんなことはない!皆、君の死を望んでなんかいない!」

「黙れ!おまえに何が分かる!!」

なにもわかりません。なので、叫びます。「わかるさ!!」

「俺は、あらゆる人間に裏切られたんだ!これ以上何を信じれば良いんだ!」

何も信じてくれなくていいです。私は叫びました。「全てを信じろ!君は、本当は裏切られてなんかいない!」

「黙れ!」

「黙らないよ!私は君に、生きてほしいから!!」

「もう……俺を楽にしてくれ!」

「いやだね!君はこれからも生きつづけなければならないんだ!」

ついに私はその男に掴みかかれるところまで近づきました。

私は言いました。

「生きていたら、きっといつかいいことがある!私は、君にこんなところで死んでほしくなんかない!!神様は人間を平等に扱ってくださる。今まで苦労してきたあなたを、神様は絶対に見捨てたり何かしない。私は!君に!生きてほしいんだ!!」

私が監視員になって以来、ここで自殺した人は一人もいません。なぜなんだ。

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