小説シンガー

部屋掃除なんてしたことが無い

石鹸の精

この家に引っ越してきて、数年ぶりくらいにトイレ掃除をした。なぜなら、トイレがつまったから。なんで私がこんなことをしないといけないんだ、とブツブツ言いながら磨いた。で、磨き終わって、くさーいトイレをでると、そこは、くさーい私の部屋である。部屋の中はゴミ、ゴミ、ゴミの山。まぁ、なれない一人暮らしって、こういうものじゃない?一人暮らしして、早数年立つけど(ワラ。

で、さすがにものぐさな私でも、トイレ掃除後くらいは手を洗いたいなと思い、洗面所にいって石鹸をこすったら、石鹸の精が出てきた。

「ありがとう。君がこすってくれたから、数年ぶりに外の世界に出てこれたよ」

私は、ショックだった。数年ぶりに出てこれたということは、私は数年間石鹸を使って手を洗っていなかったことになる。──まぁ、細かい事はいいや。

「ごらんのとおり、僕は石鹸の精だ。どんなモノも、ひとつだけ綺麗にしてあげよう」

「え?ひとつだけ『綺麗に』?」
「そうだよ。綺麗にしてあげるんだ。何しろ、石鹸の精だからね」
「願いごとを叶えてくれるんじゃないの?」
「ちがう。それはランプの精だ。僕は、清潔一番の石鹸の精だからね」

「えー?綺麗に、って、トイレ磨きとかクツ磨きとかだけでしょ?しかも、ひとつだけって、なんかケチくさいなー」
「ケチとは失礼だな、ケチとは。いいだろう。百個でも二百個でも言ってみなさい。全てのモノを綺麗にしてあげよう」

「っつーか、トイレ掃除する前に言ってほしかったな。ま、いいや。私の部屋全部綺麗にして。あ、あと、このアパートの外壁も磨いてよ。いや、待てよ?なんでも磨いてくれるんなら、この世の全てのモノを綺麗にしてよ」
「この世の全てのモノを──か・・・・・・」
「まさか、できないの?」
「出来るに決まってるだろうが!たわけもの!」
そう言うと、石鹸の精はなにやらブツブツと呪文を唱えた。

そのとき、私はふと不安な気持ちになった。昔話に良くあるじゃない?強欲なおじいさんやおばあさんが欲にまみれて願いごとをしたり、宝を見つけようとしたり、で、結局ひどい目にあうの。

もしかして、『この世の全てを綺麗にして』っていう願いごとは、『この世に存在する強欲や戦争など、「汚い」心を持った人間という存在を全て消して』という願いと同義なのではないか。

「ちょっと、待──」
「はい!終わりー!!綺麗になったなった」

「はい!?」
私は自分の部屋を見た。ゴミがたまったままだ。

「ありのままの心。ありのままの姿。そして、ありのままの世界。それこそが本当の美だと、僕は思うな」
そうつぶやくと、にこやかな微笑みとともに、石鹸の精は消えていった。

──って詐欺じゃん!!

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