小説シンガー

私は実は一人では生きていけない「人生の素人」です。

素人

「おい! 待て! 貴様のような素人がなぜこんなところにいるんだ。出ていけ!」

私は、大男に胸ぐらを掴まれ、半泣き状態だ。

「す、すいません……」
「『すいません』じゃないんだよ! ここは、道を究めたプロしか入れないはずだ。この野郎、どこから潜り込みやがった!!」
緊張で口から声がうまく出せない。

「待ってください! その方は私が呼んだのですよ」
ホールの中に、突然大きな声が響いた。このパーティーの主催者だ。
「えっ?本当ですか!?」
大男がそれを聞いて私を掴んだ腕の力を弱める。私は、群集に注目されるという緊張で顔を真っ赤にしながら、額の汗を拭いた。

「おかしいですね。私は、このパーティーには何かの達人、玄人でなければ参加できないと聞いたのですが?」
男は私のみすぼらしい姿を見ながら、信じられないという口調でいった。
「私は人を見る眼には自信があります。彼はなんの道も究めていない。ど素人だ!」
大男は、鼻息を荒くして叫んだ。そして、それはきっとその通りだ。私は、この大男を雑誌やテレビで何度も見たことがある。彼は有名な占い師だ。その特別な「観察眼」で、人間の全てを見抜く力がある。私がなんの努力もしていない、なんの特別な力もない、ただの一般人であることをその目で見抜いていたのだ。

正直、私にも分からないのだ。なぜ、こんな私にまで、このパーティーへの招待状がきたのか。

「すばらしい。その通りです」
主催者はにこにこしながら言った。
「あなたの観察眼は間違っていませんよ。噂以上だ」

私は、ふと胸に、黒いもやもやとした嫌な感じがした。もしかして、私が呼ばれたのは……。

「もしかして、この男が呼ばれたのは……」
大男が、ふと気が付いたような声を出した。
「私の能力を試すためですか?」
男は、それなら納得がいくというような顔をする。

そうなのだ。私も同じ事を考えた。私は、この男の能力を試すために呼ばれただけなのだ。デモンストレーションのために……皆の笑いものにするためだけに呼ばれたのだ。

「あなたの言うとおり、彼はど素人です!」
主催者は、我が意を得たりと満面の笑顔だ。会場内は「クスクス」と私を馬鹿にする笑い声でいっぱいになる。

「彼は、料理を作れない。経験の量と言う問題では無く、元から才能が無いのです。運動もまったくダメです。運動会では、いつもビリ。勉強も全く話にならない。彼の親は彼のために家庭教師までつけましたが、最終的には家庭教師から断りの電話がくる始末。普通の人間ならば、少しは何か取り柄というものがあるでしょう。何も、かっこいいことじゃなくてもいいんです。マンガを書くのが好きだとか、掃除が得意だとか、人と話すのが好きだとか……。しかし、彼にはそれらがない!何ひとつない!一辺のかけらもない!彼は、素人の中の素人。全くのど素人です!」

私はもう、涙を堪えるのに必死だった。悔しかった。穴があったら入りたい。このパーティーが終わったら、自殺してやる!もちろん、遺書にはこのパーティーの主催者は悪魔だ!と、書いてやるつもりだ。

「そう!みなさん、もうお気付きですね!?彼は、素人の中の素人!つまり素人を究めた、プロの素人です!!」

主催者がそう叫ぶと、会場は一瞬静まり返った後、わーっと言う大歓声に包まれた。

私は、堪えきれずに涙を流した。やっぱりバカにしてる!!

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