文学ファイター

タイトルなげぇ……。

この世界を何も知らない頃、私達は同じ世界に生きていた。この世界を知るようになって、私達はバラバラの世界に生きるようになった。

私達は子供の頃、この世界のことを何も知らなかった。だから子供の私達は「この世界はなんでも起こりうる」という共通認識の下、同じ世界に生きていた。

子供だった私達は、朝起きたら妖精世界に迷い込んでいるという現象の現実化をかなり本気で心配した。だってあり得るから。私達は、幽霊を見たことがないくせに、幽霊に呪われた時の死の覚悟すらしていた。だってあり得るから。ドラゴンに襲われた時のために、アニメやマンガでドラゴンの弱点が紹介されていたら、かなり本気でその弱点を覚えようとしていた。だってあり得るから。

私達子供は、この世界のことは何も知らなかったから、子供たちの間で情報交換をしていた。朝起きた時に妖精世界に迷い込んでいたらどうするか。幽霊を見たことがあるか。ドラゴンの弱点は何か。

私達が子供の頃、他の子と友達になることは簡単だった。だって「この世界はなんでも起こりうる」という同じ世界に住んでいたから。「魔女見たことある?」とか「うちの近所に鬼が住んでる」という話で、すぐに仲良くなれた。

でも、私達はこの世界をきちんと認識するようになって、だんだんとバラバラの世界に生きるようになった。例えば会社員の家の子は、だんだんと会社員の家の子としての常識を学び始める。八百屋の家の子は、八百屋の家の子としての常識を学び始める。大工の家の子は、大工の家の子としての常識を学び始める。

私達は私達自身の周りの世界をきちんと認識しだす。そして、私達それぞれは、それぞれに周りの環境が違うのだ。「この世界は楽しい」と感じる人もいれば「この世界は辛い」と感じる人もいるのだ。環境が違うせいで。

そして大人になって、それなりに世界の形が分かるようになった私達は、もうバラバラの世界に生きている。私はIT業界で働いている。電車で隣に座った同年代の飲食業界の人とは、きっと友達になれない。だって住む世界が違う。何を話せばいいかわからない。私は飲食業界のあるあるも、飲食業界の苦労も知らない、そして、飲食業界の彼も、IT業界のあるあるや、IT業界の苦労を知らないのだ。私と彼はもう、妖精界の話や、幽霊の話や、ドラゴンの話をすることは出来ない。大人になった私と彼は、この世界を知りすぎた。

うつ病患者の話。

この世界を真に正しく判断できるのはうつ病患者だ、という話がある。この世界に「夢」も「希望」も「期待」も持たないことで、この世界を真にあるがままに見ることが出来るらしい。

「うつ病患者に頑張れというのは良くない。なぜなら彼らはもう充分に頑張ったからだ」という話をよく聞くけど、実はうつ病患者に「頑張れ」と言っても逆効果なのは、うつ病患者には真にあるがままの世界が――つまり「頑張ってもどうにもならない世界がある」という現実が見えているからじゃないだろうか。

この世界を真にありのままに見るためには「夢」も「希望」も「期待」もこの世界に持たないことが大事、ということは、実はこの世界をきちんと認識していない子供たちはこの世界に「夢」も「希望」も「期待」も持っているからではないか。っていうか確実に持ってる。だって妖精界に迷い込む可能性すら考えているんだから。

私達大人は、子供によく「夢を持て」って言ってるけど、言われなくても子供は持ってる。むしろ大人のお前が持て。

小さい頃、学校で「将来の夢」をよく書かされた。多分あなたはもう忘れてるけど、初めてこのお題を頂いた時、私達は「将来の夢とは?」って思ったはずだ。だって将来のなりたい職業ではなく、「お菓子の家に住む」も将来の夢だし、「ドラゴンを倒す」も将来の夢だ。でも、私達は「将来の夢は?」と聞かれて、「将来なりたい職業」を書くのだ。

実は「将来の夢は?」は「早く現実を認識して将来なりたい職業を決めましょう」っていうものだと思う。だって「ドラゴンを倒す」って書いちゃ駄目だもの。つまりあれは正確に書くと「将来の現実は?」っていう問いなんだと思う。「将来、現実世界であなたはどうするのか?」っていう問いだ。

で、別に「だから『将来の夢は?』なんて問いは駄目だ」なんて言うつもりは無くて、大人になって思うのは早くから現実を見据えてきちんとそれに沿って行動できる人ってやっぱり強いな、って思う。

例えばサッカー選手の本田さんとか、子供の頃から将来の夢サッカー選手で、ストイックに努力してた。将来の夢に「ドラゴンを倒す」とか書かなかったのだ。あと、私のごく身近な例で、起業を目指して大学卒業後に自分の人生プランに沿って起業のネタに使えそうな企業に就職し、数年働いた後に自分の人生プランに沿って起業を目指す人が多く集う企業に転職していった人を見て「あぁ、あの人凄いな……」って思った。

やっぱり早くから現実を見据える人間は強い。ぼんやり生きてると、ぼんやりした人生を送る。私なんて夢見がちだから、未だにこんな文章書いてる。

でも子供の頃、まだ「妖精世界に迷い込む可能性が40%くらいはある」世界に住んでいた、夢も希望も期待も持つ私達のあの世界は、凄く楽しかった。

私達は、本当は昔は同じ世界に住んでいたのだ。今の日本の首相も、ヤクザのボスも、八百屋のオジサンも、校長先生も、ニートも、殺人鬼も、アイドルも、プログラマーの私も、そしてあなたも、小さい頃は同じ世界に住んでいたのだ。

首相も、ヤクザも、八百屋も、校長も、ニートも、殺人鬼も、アイドルも、プログラマーも、あなたも、妖精世界に迷い込んだ時の対処法を考えていたし、幽霊に呪われることを心配したし、ドラゴンの倒し方を真剣に学んだのだ。

そして世界を知り、私達は別の世界へ別れていったのだ。こんにちは、世界。さようなら、友達。

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